車両運搬具や機械装置といった固定資産の売却は、商品やサービスの売上とは違い少々特殊な会計処理や仕訳が必要になります。
知らなければ対応できないものですが、なかなか難しいというのが現実です。
そこでこの記事では、固定資産売却時に必要な会計処理や仕訳の方法についてわかりやすく解説していきます。

経理担当の人や経営者の人にぜひ読んでいただきたいです。
なお、固定資産の利用を中止する「除却」とは考え方や処理方法が異なりますので、その点はあらかじめご承知おきください。
固定資産売却時の会計処理
固定資産の売却をした際には特殊な会計処理が必要になります。
それは、固定資産売却損益の計上です。
固定資産売却損益は、売却時における帳簿価額と売却価額との差額を指します。
こちらは損益計算書における特別利益または特別損失にあたります。
固定資産の売却は滅多に起こり得ない取引であるため、特別損益になるのです。
また、売却において手数料が発生することもあるでしょう。
その金額は支払手数料等に計上するのではなく、固定資産売却損益から差し引きます。
帳簿価額や売却時に発生した現金預金の収入、売却手数料、そして減価償却費等を諸々考慮したうえで発生した差額部分が、固定資産売却損益となります。
固定資産売却の仕訳例
固定資産売却損益の考え方についてお話しました。
続いては、固定資産売却における仕訳について、例題に沿って見ていきましょう。
固定資産売却の仕訳は、減価償却費を直接法で計上しているか間接法で計上しているかによっても異なります。
そのため、今回は同じ条件で売却した場合における直接法による仕訳と間接法による仕訳のそれぞれを解説します。
今回用いる例題はこちらです。
・会計期間は4月から3月、決算日は3月31日
・3月31日に車両運搬具を売却した
・売却した車両運搬具の取得原価は1,500千円、減価償却累計額(当期償却額も含む)は1,000千円
・売却により得た現金預金は400千円である
・売却手数料が10千円発生した
こちらの例題を使って仕訳の仕方を解説していきます。
※例題の金額はわかりやすいように設定したものですので、実際の売却時に発生する金額がこのような割合であるとは限りません。
減価償却費を直接法で処理している場合
直接法とは、減価償却費を毎期直接固定資産の帳簿価額から差し引いていく処理方法です。
そのため直接法で処理している場合、固定資産の帳簿価額はそれまでの減価償却費を差し引いた実際額で計上されています。
よって減価償却累計額という概念はなく、今回の例題において計上されている車両運搬具の帳簿価額は、取得原価である1,500千円から減価償却累計額1,000千円を差し引いた金額である500千円となります。
ここまで整理したうえで、仕訳を作成しましょう。
現金預金は売却による収入と売却手数料による支出の両方が発生していますが、まずはわかりやすいように両建てで書いていきます。
現金預金 400 / 車両運搬具 500
現金預金 10 (売却手数料)
固定資産売却損 110
両建てで計上されている現金預金は相殺しましょう。
現金預金 390 / 車両運搬具 500
固定資産売却損 110
貸借差額である110千円が、固定資産売却損として計上されました。
今回は固定資産売却損でしたが、貸借差額が貸方側に発生しているのであれば、固定資産売却益となります。
減価償却費を間接法で処理している場合
間接法とは、減価償却費を固定資産の帳簿価額から差し引かず、減価償却累計額に計上していく処理方法です。
そのため間接法で処理している場合、固定資産の帳簿価額は取得価額がそのまま計上されており、貸借対照表において固定資産の直下に減価償却累計額が記載されています。
そのため今回の例題における車両運搬具の帳簿価額は取得原価の1,500千円で計上されており、減価償却累計額である1,000千円が別で計上されています。
ここまで整理したうえで、仕訳を作成しましょう。今回は現金預金の両建て処理による仕訳は省き、いきなり総額を計上します。
現金預金 390 / 車両運搬具 1,500
減価償却累計額 1,000
固定資産売却損 110
借方側に減価償却累計額が計上され、車両運搬具の価額が取得原価となっただけです。
ご覧いただいてわかる通り、直接法と間接法どちらの処理方法を用いていても、計上される固定資産売却損益の額は一緒になります。
期中に固定資産の売却をおこなった場合
先ほどは決算日に車両運搬具の売却をおこなった例題を使いました。
当期において発生した減価償却費の計上はすでに済んでいるという設定であったため、仕訳処理が楽でした。
では、期中に固定資産の売却をおこなった場合はどのように仕訳をたてれば良いのでしょうか。
続いては売却日までの減価償却費を計算しなければならない場合について解説します。
今回用いる例題はこちらです。先ほどの例題とほとんど同じですが、変更点に下線を引いています。
・会計期間は4月から3月、決算日は3月31日
・10月31日に車両運搬具を売却した
・売却した車両運搬具の取得原価は1,500千円、減価償却累計額は1,000千円
・車両運搬具の耐用年数は6年、定額法で減価償却をおこなっており、償却率は0.167を利用している(今回は簡便化のため小数点以下切り捨て)
・売却により得た現金預金は400千円である
・売却手数料が10千円発生した
※法人の場合、車両運搬具の減価償却は通常定率法によっておこないますが、今回はわかりやすさを重視して簡便化のために定額法で例題を作っています。
まずは、売却時点までに発生した減価償却費を計算する必要があります。
定額法の場合は取得原価に償却率を乗じて減価償却費を算出しますので、早速計算しましょう。
期首が4月1日で売却日が10月31日と、期首からちょうど6ヶ月経っていますので、6ヶ月分の減価償却費を算出します。
1,500千円×0.167×6ヶ月÷12ヶ月=125.25千円≒125千円
よって、今回計上する売却日までの減価償却費は125千円となります。
続いて、固定資産売却損益の計算に入りましょう。
直接法と間接法の考え方については先述しましたので、今回は両者の仕訳例をいきなり並べます。
<直接法>
現金預金 390 / 車両運搬具 500
減価償却費 125
固定資産売却益 15
<間接法>
現金預金 390 / 車両運搬具 1,500
減価償却費 125
減価償却累計額 1,000
固定資産売却益 15
このように、借方側に減価償却費が追加されるだけです。
先ほどの例題と同様で、直接法と間接法のどちらを用いた場合であっても、発生する固定資産売却損益は同じになります。
減価償却費の計算がやや面倒ではありますが、1年分の減価償却費に経過期間を乗じて、それを1年で割れば良いだけですので難しいことはありません。
なお、定率法の場合には、その年における固定資産の残存価額(取得原価から減価償却累計額を差し引いた額)に償却率を乗じて1年分の減価償却費を算出します。
そして算出された減価償却費に経過期間を乗じて1年で割れば、当期の減価償却費が出ます。
固定資産売却の会計処理・仕訳方法は整理すれば難しくない
いかがでしたでしょうか。
固定資産売却時の会計処理や仕訳方法について長々と解説をしてきましたが、考え方はそう難しくありません。基本に忠実に処理していけば、簡単に計算することができます。
今回のポイントとしては
・固定資産の売却時には固定資産売却損益を計上する
・固定資産売却損益は売却に関係する諸々の金額の差額
・期中に売却をおこなった場合はそれまでの減価償却費を算出する必要がある
以上の3点です。こちらさえ押さえておけば固定資産売却の会計処理は問題ないでしょう。
正しい会計処理・仕訳をおこなって、正確な財務諸表を作成して下さい。
分からなくても調べて下さい
今回は本当に初歩的な形で説明しましたが、もしこの記事で分からない場合はグーグルで検索してみて下さい。
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本当に最初だけでもいいのです。
ちょっとでも理解していれば経営状態だって変わってくるはずです。
お金の計算は頭を悩ませがちですが、ポイントさえ押さえてしまえば本当に楽ですので是非とも諦めずに勉強して頂けたらと思います。
さいごに
固定資産売却時の会計処理・仕訳方法については要所を抑えてしまえばそんなに難しい事ではありません。
かと言って多少なりとも勉強しておかなければなかなか理解しにくいのも確かです。
経理担当者は大丈夫だと思いますが、経営者は少しでも理解して全てを経理に任せないようにしましょう。
自分の会社は自分で守るためにもどういう会計処理が行われているかは逐一確認する必要はあるかと思います。
他にも色んな会計処理がありますが、まずは固定資産売却時の会計処理・仕訳方法については覚えるようにしましょう。
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